アマゾンはなぜ今さらリアル書店をつくるのか?
アメリカの読書風景①
「近寄りがたい気がしちゃったのも事実」
出版業界とは関係ない友人のひとりに店の感想を聞いてみた。「面陳(face out)で並べられた本は美術品(beautiful object)みたいで、スッキリとした心地よいスペースだったことは確かね。ある意味、本がそんな風にリスペクトを持って飾られているのはいいけど、一方で近寄りがたい気がしちゃったのも事実。結局、本が「いい気持ちにさせてくれるかどうか」(made me feel good)は中身を読んだ時の話じゃない?」と。
書籍に限らず、買い物をする時のスッキリ感というのはすべての店舗にとって重要な点だろう。観光や買い物の途中で「アマゾン書店」という文字と見慣れたロゴが目に入る。おや、アマゾンといえばネットの通販サイトかとばかり思っていたが、実店舗もあるのか、どれどれ入ってみよう、と様々な人々がやってくる。そして面陳でズラっと並べられた本を「見て」、周りの人たちがどういう本を読んでいるのかを知る。そして本でも読んでみようかなと思ったら、レジに並ぶ手間も要らないまま本が手に入る。
蔵書数よりも回転数をひたすら重視した品揃えなので、誰も「そういえば読みたかったあの本、置いてあるかな」と思ってここには来ない。ブラウズという行為にはセレクションが少なすぎるからだ。仮に探していた本があったとしても、その近くの棚を見回して目に入った類書に惹かれてそっちも買う、というケースは少ないだろう。
では、次々とこんな書店をオープンして、アマゾンは何をやろうとしているのだろうか。仮に売れ筋のベストセラーの本をネット販売以上に売りたいのであれば、いちいち店舗スペースをリースして、本棚を配置して、書店員を雇う手間暇をかける必要はない。だったらアマゾンがいちばんよく知っている有効なネットキャンペーンを張って、クーポンをばら撒き、本の値段をさらに安くすれば済むことなのだから。